どんな取り組みか
本稿では、中央省庁における国会答弁対応業務、特に想定問答の作成・審査プロセスにおけるAI活用について、Amazon Web Services (AWS) の公共部門アカウントチームおよびプロトタイピングチームが省庁と共同し、省庁が保有する過去の想定問答ファイルを横断検索しながら、AIによる想定問答のドラフト生成や、人の手による修正を含む審査プロセスを支援するAIアプリケーションを構築した取り組みを紹介します。この取り組みは、国会答弁の質を支える想定問答作成業務の高度化・効率化を目指すものです。
国会答弁は、政府の政策や方針、予算について国民及び国会議員に対して説明し、行政の透明性と説明責任を果たすための重要な業務です。しかし、想定問答の作成には、過去の想定問答ファイルや国会会議録を限られた時間の中で正確に参照する必要があり、参照すべき文書候補が大量にあることから、迅速な情報アクセスが困難なケースが多く存在します。また、公務員の働き方改革や生成AI技術の急速な発展も相まって、本業務のさらなる高度化・効率化への期待が高まっています。
今回構築されたAIアプリケーションは、答弁案の初稿ドラフト案の生成と、その修正プロセスにおける審査を支援するものです。これは、答弁の最終的な判断や表現をAIに委ねるのではなく、人間の判断を中心に据え、機械的に処理できる部分をAIに担わせることで、職員がより本質的な検討に集中できる環境を目指すものです。
使われた技術スタック
作成されたプロトタイプ(DietSearch)は、AWSのサーバーレス構成を基本として設計されています。主な採用サービスは以下の通りです。
- フロントエンド配信: Amazon CloudFront + Amazon S3、AWS WAF
- 認証・認可: Amazon Cognito (Identity Pool, User Pool) によるロールベースアクセス制御、Azure Entra ID との SAML 連携
- API: AWS Lambda (Function URL, TypeScript・Hono を利用)
- 検索・生成: Amazon Bedrock Knowledge Bases を基盤とし、埋め込みモデルに Amazon Titan Text Embeddings V2、推論モデルに Claude 等を選択可能、セーフガードに Amazon Bedrock Guardrails を採用
- ベクトルストア: Amazon Aurora Serverless v2 (PostgreSQL + pgvector) または Amazon OpenSearch Serverless
- データ管理: Amazon S3 (文書データソース)、Amazon DynamoDB (データ管理)
- セキュリティ・運用: AWS KMS による暗号化、Amazon CloudWatch によるモニタリング
- インフラ管理: IaC ( SST / Pulumi )、Pulumi Policy Pack
実装のポイント
本プロトタイピングプログラムは、約半年にわたって担当部局の方々と反復改善を重ね、利用者の声を起点に作り込みが行われました。進め方としては、ヒアリングした要件を元に機能を開発し、担当部局の方々に実際にデプロイして使っていただき、フィードバックを収集。そのフィードバックを要件や設計に落とし込み、機能として実装するという共創型のアプローチが高頻度で回されました。
プロトタイプ(DietSearch)の主な機能は以下の通りです。
- 文書のナレッジベース化: 組織が保有する過去の想定問答ファイルをセキュアな環境にアップロードし、検索可能なナレッジベースを構築。
- メタデータの生成部分のカスタマイズ機能: 定義したルールに基づき、各文書に対してリッチで文脈豊かなメタデータを自動生成。これにより検索時の関連度合いや精度が向上。
- ドラフト生成: 入力された質問に対し、LLMが検索した文書をコンテキストとして参照し、答弁の初稿ドラフト案を作成。ドラフトの各パラグラフには参照した過去の想定問答ファイルが紐づく。
- 過去の想定問答ファイルの横断検索(ハイブリッド検索): ベクトル検索と全文検索を組み合わせたハイブリッド検索を採用し、高い精度の検索を実現。
- 答弁案審査支援: 作成・修正された答弁案に対し、過去の想定問答との類似性を検証し、関連性の高い箇所をハイライト表示。
- 国会会議録検索システムとの連携: 公開されている国会会議録検索システムAPIと連携し、議事録を取得。組織内の過去の想定問答と、対応する日付の該当委員会での発言との関連性を可視化。
UI/UXにもこだわり、検索結果と答弁案を左右に並べて比較できるインターフェース、議事録原文のプレビュー、検索条件のフィルタリング、作業状況の他ユーザーへの共有、ロールベースのアクセス制御、少ない操作でのファイルアップロードと同期機能などを備えています。
得られた成果や学び
担当部局からは、「数か月という短期間で、構想段階からプロトタイプのリリースまでを進めることができた貴重な取組」「効率的にプロトタイプをブラッシュアップしていくプロセスを実践できた」「業務実態に即した、非常に使い勝手の良いアプリケーションを実現できた」といった肯定的な評価を得ています。
特に、官公庁ではウォーターフォール型開発が主流であるのに対し、本取組ではアジャイル型の開発手法を採用したことで、利用者のニーズを反映した改善を随時行うことが可能となり、結果として業務効率化に大きく寄与するアプリケーションを構築できた点が特筆されます。
実際に組織内に部分的に展開したところ、「作成される初稿ドラフトの質が想像よりも高かった」「ファイルを自分で開いて確認する手間や国会議事録検索システムを検索する手間が減り、作業が早くなる」といった好評を得ています。
当該省庁では、本格導入を目指し準備を進めており、本ソリューションは他の省庁や地方自治体での展開可能性も期待されています。
まとめ
「まず動かして確かめる」というプロトタイピングのアプローチは、AIのような実際に動かしてみなければ効果を判断しにくい領域において、本格導入の判断材料を得るために特に有効です。AWSのパブリックセクター プロトタイピングチームは、公共のお客様のアイデアを短期間で形にし、次の意思決定を後押しします。本取り組みは、国会答弁対応業務の高度化と効率化に向けたAI活用の有効性を示す事例となりました。
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