どんな取り組みか
株式会社日立産業制御ソリューションズは、AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)を実践し、従来3人月以上かかっていた開発規模をわずか2日間で形にすることに成功しました。この取り組みは、AWS Loft Tokyoで開催された「合同 AI-DLC Unicorn Gym」にて行われました。本記事では、AI-DLCの実践を通じて得られた「リアルな手応え」と、これからのエンジニアに求められる「役割の変化」について共有します。
同社では、生成AIを開発に導入しても「思ったようにいかない」「自分で手を動かしたほうが早い」といった課題に直面していました。AI技術の急速な進化を踏まえ、開発プロセスそのものを「AI前提」にアップデートする必要性を感じていました。今回のイベントでは、AIコーディングエージェントを開発の主体に据えるAI-DLCを体験し、その実効性を検証することを目的としました。
使われた技術スタック
今回のイベントでは、AIコーディングエージェント「Kiro」が開発の主体として活用されました。開発テーマは「分散したIT資産・セキュリティデータの統合基盤構築」です。
実装のポイント
イベントは2日間にわたって実施されました。
1日目: Inception(構想)
Kiroとの対話を通じて、曖昧なビジネス意図を詳細な要件に変換しました。人間がレビュー・承認し、AIが仕様書に即時反映するサイクルを繰り返しました。
2日目: Construction(構築)
前日の要件に基づき、Kiroが設計とコードを提案しました。その後、モブコンストラクション形式で集中的に実装を進めました。
AI-DLCでは、エンジニアと業務部門の担当者が協力し、AIの提案に対してその場でフィードバックを返しました。業務を熟知した担当者がその場で「この項目は管理対象に含めるべきか」「このチェックロジックは現場の運用に合っているか」といった判断を下すことで、数分後には修正された仕様書やコードが提示される、という即時のフィードバックループが大きな強みとなりました。
得られた成果や学び
成果物と工数比較
従来の手法では約530時間(3人月相当)と見積もられていた「IT資産・セキュリティデータの統合活用基盤」の構築が、AI-DLCを用いることで合計約70時間(7名×実働10時間)で形になりました。
- 要件定義・設計: ユースケース・ストーリー8本、API設計14本(手動開発想定: 120〜160時間)
- バックエンド: Lambda 18関数(約2,600行)、DynamoDB 9テーブル(手動開発想定: 160〜200時間)
- フロントエンド: ダッシュボードUI、RBAC(ロールベースアクセス制御)、CSV出力(手動開発想定: 120〜160時間)
- インフラ・CI/CD: CDK 2系統、IAM設定、CI/CDパイプライン(手動開発想定: 60〜80時間)
ただし、この成果には業務担当者が同席し即時に意思決定できる体制、業務割り込みのない集中環境、プロトタイプに特化したスコープ(結合テストやセキュリティ審査は未実施)という条件がありました。それでも、設計・実装からAWS環境へのデプロイまでを2日で形にできた点は、AI-DLCの可能性を強く実感する結果でした。
学び
- 設計の「ちょうどいい」を見極めるのは人間: Kiroは精度の高い設計提案を行いますが、プロジェクトの規模以上に厳格な構成を提案することもあります。人間がプロジェクトの実情に合わせて取捨選択する判断力がより重要になります。
- コードの修正もAIに任せる: AIがミスをした場合、人間が直接コードを修正するとAIのコンテキストとの乖離が生じ、以降の提案精度が低下します。修正もAIとの対話を通じて行い、「AIが認識しているコードが正」というルールを徹底することがスムーズなAI駆動開発の鍵でした。
- 意思決定と言語化に集中する開発手法: AIは数分でレビュー結果を反映し次の成果物を提出するため、人間はコードを書く代わりにレビューと意思決定を高速に繰り返します。また、AIは暗黙の前提や文脈を汲み取れないため、仕様や意図を正確に言語化する力が求められます。コーディングから解放された分、ビジネス価値の判断と要件の言語化に集中できる点がAI-DLCの大きな魅力です。
AI-DLCは単なる時短手法ではなく、開発の密度とフィードバックの速度を高めることで、開発全体を加速させる質の異なる体験をもたらしました。コード作成はAIに委ね、人間はレビュー・承認に専念することで、自社固有の業務制約や設計判断を見抜く技術力がより重要になります。
同社では、今回の成果を踏まえAI-DLCのワーキンググループを発足し、サンドボックス環境の整備やAIエージェントを使いこなすためのルール構築を進め、社内開発プロセスへの適用を本格的に推進していく予定です。
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